遺伝学・画像解析・医療機器開発・患者向けツールにまたがる研究・開発の現在地。
強度近視(等価球面度数 ≤ −6.00 D または眼軸長 ≥ 26 mm)は、網膜剥離・近視性黄斑変性・緑内障など視力を脅かす合併症リスクを著しく高めます。大規模GWAS・ホールゲノムシークエンシング(WGS)・東アジア人集団における疫学調査を通じて、病的眼軸延長の遺伝的背景を解明しています。
最強度近視家系のWGS解析により、多世代にわたる家系において3番染色体上の大規模重複を同定しました。重複領域内の遺伝子の過剰発現がゼブラフィッシュで近視様眼軸延長を引き起こすことを確認しており、現在そのメカニズムを解明するためのコンディショナルノックインマウスを作製中です。
これらの研究は、病的近視発症に関わる疫学的・遺伝学的リスク因子の同定、および近視進行と合併症に対する修正可能な因子と予測バイオマーカーの解明を目指しています。
パキコロイド疾患は、中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)・パキコロイド新生血管症(PNV)・ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)などを包含し、脈絡膜外層の拡張血管(パキベッセル)と脈絡膜静脈鬱滞を共通の病態基盤とします。OCTアンギオグラフィーを含むマルチモーダル網膜画像を用いて、遺伝的背景・自然経過・最適治療戦略の解明に取り組んでいます。
我々は2015年に、アジア人AMD患者の相当数にPNVが含まれることを世界で初めて明らかにし、アジア人における黄斑新生血管の理解を大きく塗り替えた研究成果を発表しました。また、新興疾患概念「パキドルーゼン」のAPAO診断基準策定にも参画しています。
臨床面では、日本で唯一のCSC専門外来を運営しており、rf-PDT(低照射量光線力学療法)のCSCへの薬事承認取得を目指すREPLAY試験(医師主導治験)を実施中です。
従来の緑内障インプラントは術後眼圧の調整ができないため、低眼圧や眼圧コントロール不良のリスクがあります。本プロジェクトでは、術後に非侵襲的に房水流出抵抗を微調整できる次世代型調整可能マイクロ流体緑内障インプラントを開発しています。低侵襲性を維持しながら線維柱帯切除術に対して非劣性の眼圧コントロールを目標としています。
デバイスには京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)との共同研究で開発したコンパクトな調整機構を搭載しており、同拠点のマイクロスケール材料・製造技術が臨床応用可能なデバイス形態の実現に大きく貢献しています。
AMED橋渡し研究プログラム(シーズH・異分野融合)、シーズA、次世代ヘルスケアスタートアップ育成支援事業など競争的公的資金5,500万円超を獲得して開発を進めています。
従来の自動視野計は主観的なボタン押し反応に依存し、患者疲労や固視不良の影響を受けやすい課題があります。視線分析型自動視野計(GAP)は毎秒最大240フレームで眼球運動を追跡するヘッドマウント型デバイスであり、ボタン操作を一切必要とせず、視線の動きだけで視標の認識を判定します。
その原理は、新たに提示された視標が見えている場合には視線がそちらへ直線的に移動し、見えていない場合には視線が別の方向に向かうか視標に到達しない、という反射的な視線応答を利用するものです。これにより、視野全域にわたる視覚感度を客観的に測定します。
臨床研究ではハンフリー視野計との高い相関が実証されており、緑内障のスクリーニング・モニタリングや信頼性の高いボタン押し反応が困難な患者への客観的視野評価への応用が期待されています。
認知症やMCIでは眼球運動パターンの変化が臨床診断に先立ち生じることが知られています。長浜スタディの約10,000人コホートを用いた解析では、視標提示から視線移動開始までの平均時間(視線反応速度)・潜時・サッケード回数・ファーストゲイン・エンドゲインなど複数の視線パラメータを評価し、そのうちいくつかが認知機能と有意に関連することを明らかにしました。
これらの知見を基盤として、動画コンテンツ視聴中の視線の動き方から軽度認知障害(MCI)を検出するプログラムを開発しています。被験者の能動的な反応を必要としない低負担なアプローチです。本プロジェクトはAMED医工連携・人工知能実装研究事業の競争的資金約3億円を獲得しており、薬事承認に向けた医師主導治験を予定しています。
「みえかたノート」は、視覚症状を抱える患者が日常生活における見え方の変化(歪み・ぼやけ・暗点・光過敏など)を体系的に記録し、診療時に医師へ伝えやすくするための患者向けツールです。
診察と診察の間の患者の生活体験と臨床現場をつなぐことで、共同意思決定を支援し、機能変化の縦断的トラッキングを可能にします。患者中心の眼科医療と患者報告アウトカム(PRO)の実臨床への統合を目指す取り組みです。
2017年に日本眼科学会が設立したJOIRは、全国22以上の大学病院・関連施設から眼底写真・OCT画像・視野検査データをセキュアなクラウド経由で自動収集する全国規模のリアルワールドデータベースです。2026年3月時点で150万枚超の眼底写真、60万件超のOCT画像および関連臨床データを収集しており、世界最大級の眼科画像リポジトリの一つです。
JOIRデータから開発された学習済みAIモデルは公開されており、機関横断的な研究利用に貢献しています。2025年10月には、本プロジェクトで開発されたプログラム医療機器(SaMD)が日本初の眼科領域SaMDとして薬事承認を取得するという画期的な成果を達成しました。